44.ズミクロンが神話ならズミルックスは悪魔

     
ズミクロン神話

 ズミクロン35mmf2.0初代モデル、通称8枚玉(以下8枚玉)ほど神話に彩られたレンズは無い。
中古価格も神話にふさわしく20万オーバーは当たり前、程度のいいものだと30万に手が届きそうな値段で取引されています。

  物質の質感表現に優れまるでそこに本当にあるように写り、ボケも素直でピントの合った部分を浮き出させその場の空気が写るといったような表現がよく使われておりまるで完璧なレンズとは8枚玉のことと言わんばかりである。
 はたして真実なのでしょうか?

 僕が得た結論は本当の部分もあるがそれほど完璧なレンズでもないと言うのが結論です。
神話にいわれるような特別なレンズと思って購入すれば期待を裏切られることになるでしょう。ましてやカラーネガのお店プリントしか利用しないようでしたら全く不必要な買い物になります。モノクロを自分で引き伸ばすというのなら使ってみる価値は充分にあると思います。それとて特別な写り方をするわけではありません。開発された時期から考えても現在のレンズと比べるとコントラスト、解像力、画面の均一性どれをとっても劣っています。それなのになぜこれほどまでに特別扱いされるのでしょうか。デザインのよさや作り込みの丁寧さのように外観から受ける印象は神格化されるにふさわしい作りです。肝心の写りに関しては特別な写りをしないということが特徴のような気がします。普通です(笑)とにかく素直な写りです。
 あなたが四つ切り(少なくとも六つ切り以上)に引き伸ばしプリントをするのならこの素直と言う意味を分かっていただけると思います。撮影時の露出に間違いが無ければほとんどの場合ストレートにプリントしただけで完成された画面になります。薄く焼こうが濃い目に焼こうが素直に付いてきます。暗部の諧調もよく残っていてハイライトも飛ばずに非常にプリントしやすいネガに仕上がります。写りそのものも絞っても中心部の解像度の上昇に対し外周部の解像度があまり上がらないという欠点というべきことがピントの合った部分を浮き上がらせるという効果を生んでいるようです。それもすごくバランスのいいところでつりあっているのだ。この普通ともいえるバランスの良さを神話として受け入れられるのなら買って損は無いレンズといえますが、それにしても価格は高すぎますよね。


購入を考えている人に

 どのレンズでも中古では経年や使われ方であたりはずれがあることは事実です。特に8枚玉は高値で取引されているので他のレンズより注意すべき点があります。メガネ付からメガネを外して改造したものや見た目をきれい(高価になる)にするためにコーティングを剥がしてまでキズを消したりしているレンズがたくさん出回っているからです。(販売店や修理の専門家から聞いた話をまとめてみました。)

1.信頼できる販売店で購入することが最低条件だ。

 どんなカメラやレンズでも中古品を買うにはリスクはつきものです。信頼できる販売店で購入したからといって上記のような改造品や不良品を売っていないという訳ではありません。それほど改造は巧妙になっています。ライカの専門店の販売員でも区別がつかない場合もあります。しかし6ヶ月の保障期間もありますし改造の事実が分かった時には適切な対応(交換、返金)をしてくれます。まず親切な対応をしてくれる販売店を見つけることが先決です。

2.買ったら直ぐにオーバーホールに出そう。

 最初に書いたように改造品の出来が巧妙になっていて素人の我々だけではなく中古販売店でもオリジナルかどうかの区別が付きません。他のレンズやカメラの場合は不調を訴えるまで使ってそれから修理に出せばいいという主義ですが8枚玉だけは買ったその足で修理に持ち込むぐらいの気持ちが必要です。それもライカレンズの専門家のいる修理屋さんへ(日暮里のYさんやライカジャパン)。OHには25,000円前後の費用が掛かりますが安心料と実際にメンテナンスされるのですから安い出費と思います。改造品と分かれば分かったで販売店に対応を求めることも出来るわけですから、そのためにも「1.信頼できる販売店で購入することが最低条件だ。」はとても大事なことです。

3.RF(メガネ付き)の方が良品が多い。

 ズミクロン35mmf2.0初代モデル(8枚玉)には35mmフレームが表れる通常の形状のものと縮小倍率をかけて50mmフレームで35mmの画角を見るRFレンズ(メガネ付き)とがあります。市場の人気が高いのはやはり使いよくデザインも良いメガネ無しのモデルです。価格もメガネ無しと有りとでは倍ほどの価格差があります。もちろん価格の高いのはメガネなしモデルです。改造してお金儲けを企んでいる人間としては高値で取引されているメガネ無しがターゲットになっています。メガネ付をメガネ無しに改造して売っている例はありますがその逆は無いので少なくとも改造品を買わされることはありません。また使用頻度が低い(メガネ付って使いにくいものね。)のかヘリコイドや絞りの程度のいい物が多いのでレンズの見極めに注意をすればいい物を購入できます。重い、見難い、使いづらいという三重苦を乗り越える勇気(笑)があるのなら金額的にもお勧めです。もちろんメガネ付き無しに写りの違いはありません。(実は、僕も写りのいいメガネ付きを探しています。13万円位からで結構いい物が手に入ります。外観もピカピカじゃないといやという人なら15万円〜17万円も出せば充分です。)

4.後期モデルの方がコントラストが高い。

 8枚玉だけではなく60年代〜80年代に作られたほとんどのレンズは後期になるほど程度の差こそはあれコントラストが高くなっています。特にコーティング技術の進歩過程だったこともあり生産時期によってコーテイングが違っています。カラーフィルムに対応することが当時の方向だったようでフィルムが今日ほど性能が高くなかったのでレンズでカラーフィルムの欠点を補おうとしたようです。古いレンズがアンバーがかった発色が多いのも当時のカラーフィルムの欠点を補おうとした結果です。


 

Summicron35mm F2.0 (1st)
作りも仕上げも最高、いかにもよく写りそう。
スタイルだけでも欲しくなる。

Summlux35mm F1.4
レンズの大きさが高速レンズを物語る。
Summicron、Summiluxともカナダライツで開発された。

クズ玉といわれたズミルックス
 ズミクロン35mm(8枚玉)は35mmレンズ開発では世界のトップに水を開けられていたライツ社が35mmレンズにおいても世界のトップと肩を並べられることが出来た記念すべきレンズですが1960年フォトキナで発表されたズミルックスはライツの焦点距離35mmとしては最も明るいレンズとして登場したが、しかし開放時の描写は強い光が入るとにじみやゴーストが発生することで不良品では無いかという事件も持ち上がり、こんなレンズは使えない、挙句の果てには「クズ玉」と長い間評価されてきた悲劇のレンズです。ここ最近(と言っても年寄りが言うここ最近ですから10年ぐらい前の話ですが)この開放時のフレアやゴーストといった悪い面だけではなく他のレンズには無いにじみやソフトなボケを「レンズの味」として評価され人気が高くなったレンズです。「レンズの味」という言葉はあまり好きではありませんがズミルックスにとってはこういう風潮も良かったのかもしれませんね。

ズミルックス派

 レンズの特徴は開放付近で顕著に現れます。ライツのレンズは特に開放での描写に重点をおいて開発されてきました。その事もあり雑誌の記事でも開放での描写を中心に取り上げられたり、開放で使わないと意味が無いなどという人もいます。確かに一理あります。ピントの合った部分とアウトフォーカスのなだらかな変化。中央部分に被写体を持ってきたときの立体感は特筆ものです。クセになります。
 しかし静物の撮影と違ってストリートスナップでは周りの状況も大切な要素になります。ボケていても何が写っているのかが分からないと困るときもあるしパンフォーカスで撮る必要もあります。開放時の描写だけではなく中間絞りやうんと絞り込んだ時の描写も大切ですがこのことに言及した文章はあまり見受けられません。絞って使えばどんなレンズでも同じだという意見もありますが本当に同じでしょうか?

 僕はこのことにいつも疑問を持っています。疑問というより憤慨しているといってもいいでしょう。断じて同じではありません。実際に撮影して引き伸ばせば明らかです。ズミクロンの優しさ、ズミルックスの繊細さと絞り込んでいってもそれぞれの特徴が見て取れます。絞り込んでも周辺の解像度が余り上がらないズミクロンやズミルックスは画面が硬くなることも無くコントラストもきつくなりません。ズミルックスの方が少しコントラストが高いようですが製造年代や経年変化のこともあるので個体が変われば違ってくるかもしれません。ただ線の描写に両者の違いがありズミルックスの方が細いのでズミクロンの方が優しくズミルックスの方が繊細に感じます。といっても開放の描写と違って両方で撮影された印画紙を並べて分かることです。少しの違いなのですが表現によってはこの差が大きな違いになる時があります。
  どちらか1本だけと言われれば僕はズミルックス派でしょうかね。50mmでもズミクロン(固定鏡胴初代後期)よりズミルックス(初代後期)の使用率が高いです。(ズミルックスばかり使っていてズミクロンを使うとその優しい描写にホロリとします。)
  絞りの位置によって描写の変化が大きくて光の状態にも敏感な扱いにくいレンズですが繊細な描写でありながらチリチリしたところが無いズミルックスはかけがえのないレンズです。ズミクロンは8枚玉でなくても第二世代の6枚玉で充分かなと思います。
 でも、本音はやはり「どちらも欲しい」レンズですね。(笑)