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36.神話のレンズ |
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6群8枚構成の初代ズミクロン35mm(通称8枚玉)はズマロンの後続機種として1958年にライツ・カナダで開発、製造された。
1958年といえばM2が発売された年でもある。まだグラフジャーナリズムが隆盛な時代に開発され、発売された。世界中のフォトジャーナリストたちに愛用されそして神話も数多く生み出された幸せなレンズである。発売後40年以上にもなるが未だに異常ともいえる人気の高いレンズである。外観から見てもその作りのよさはライツ社全盛の時代に作られたズミクロン50mm、90mmと同様に大変手の込んだ作りである。このように作りのよさは見ただけで納得出来るものだがその描写性能に関しては神話の世界なのだ。 |
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神話か呪いか |
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初代ズミクロンの描写は貶すと天罰が下るかのように、どの書物を見ても絶賛である。たまに否定的な記事を目にしても「2代目の6枚玉よりコントラストが低く、逆光に弱い...」程度の記載でその後には「暗部の描写はさすがに8枚玉が...」という具合に褒め言葉で終るのである。本当の描写性能はどうなのかという疑問がふくらむばかりだ。だれか4切りサイズのプリントを満載した「これが神話の写り。8枚玉の華麗な世界」と題して本でも出してくれないかと本気で思う。これは何とかしなくっちゃ。と、この時点で完全に8枚玉の呪いに罹っている訳だが本人はまだ知る由もない。
2代目、3代目いや技術の粋を集めて開発された現行のアスフェリカルモデルと比べても2倍以上も高い価格(中古価格)を付けている初代8枚玉とはいったい何なんだろうか。コントラストが弱く、周辺の解像が甘い、逆光にも弱いとくればダメ玉じゃないの?立体感は他のレンズには真似出来ない...。ん!周辺のピントの甘さや周辺の解像度の甘さじゃないのかこれって?全面にピントが来て解像度が高けりゃいいというものではないことは十分承知の上だが、それにしても不可解だ。気分はもう「ただの神話か8枚玉」です。
<休憩>
雑誌の中に撮り比べという記事がよく有ります。何度もどこかに書いた記憶が有りますが、作例の写真を見ても私にはよく解らないと言うのが本音です。まったくという場合と、ほとんどという場合が有りますが、それほど大騒ぎするほどの違いがあるの?と思ってしまいます。ましてやカラーの作例ばかりでは、色のりの悪さや偏りがモノクロ撮影の場合に欠点とはならないのです。というよりも逆の場合が多いのです。カラーの発色が鮮やかでクッキリ写るレンズはモノクロでは諧調の乏しいレンズであることが多い。ということで雑誌の写真や記事だけで判断することは難しいというのが結論だ。気分はもう「どうすりゃいいんだ8枚玉」です。
<またもや休憩>
冷静な前頭葉は「お前に合っているのはズミルックスの方だよ。」「ズミクロンなら6枚玉初期の角付きと言われている物の方がピントがほぼ全面に来るしコントラストが高くなったとはいえ7枚玉ほどでもないしコストも考えればベストじゃないの」と訴えかけます。そうだよね「ズミルックスの開放の描写と絞った時の描写もいいんだな。」ズミクロンなら神話に惑わされずに「男は黙って6枚玉」(女性でも)だよね。ズミルックス、ズミルックス・・・6枚玉、6枚玉・・・。気分はもう「どうでもいいか8枚玉」です。
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買うしかないのだ |
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| 前頭葉の人民全体会議の結論を得、「6枚玉角付き」を探します。初期のドイツ製で外観のスレが目立つがレンズやヘリコイドに問題が無いものを発見。価格も手ごろだ。(10万円を越して手ごろも無いが、病気のなせる業だ。)ちなみに「角付き」のドイツ製は数が少ないのです。ドイツでもカナダでもどちらでもいいのですが生産数が少ないなどと言われると欲しくなるのも病気のせいです。「買い物カゴ」に入れて、後は「注文」のボタンをクリックするだけです。・・・その時、前頭葉の人民全体会議議場にアヒルがなぜか登場「お金は大事だよ。」アフラッ...。「6枚玉角付き」を使っていて思った描写じゃなかったら「8枚玉」にしていた方がよかった。と後悔しないか?「6枚玉角付き」の描写がすばらしい場合も「6枚玉角付き」がこんなにいいのなら「8枚玉」はもっといいのか?と後悔しないか?「6枚玉角付き」を買ってから「8枚玉」にも手を出すのなら最初から「8枚玉」を買った方が安く付くのだよ。「お金は大事だよ。」アフラッ...。ううむ?気分はもう「やっぱり8枚玉」です。
運良く(運悪く?)いつも買い物をするKカメラのHPに商品が有ります。174万台のカナダ製でクオリティはA+。クオリティから言えば値段は妥当だがそれにしても高い。もっと高いレンズは山ほどあるがやっぱり高い。メガネ付きなら半額ぐらいで手に入る。描写は同じだ。どうする?メガネ付きも見た目ほど使いにくくはないのだが一日中持っていると重さのほうが堪えるしメガネ無しのレンズの方が扱いやすいことは「ズマロンF3.5メガネ付き」を使っている経験上明白だ。「高い買い物も長く使えば元を取る。」「高い買い物も長く使えば元を取る。」「高い買い物も長く使えば元を取る。」と呪文を唱え、清水の舞台から飛び降りて折れた足を引きずって京都駅まで歩く覚悟で「注文」ボタンをクリック。
いつもの言葉「使ってみなけりゃ分からない」の声にも力がなかったことも報告しておこう。「神話は高くつくのだ。」
「注文」ボタンをクリックしたとたんズミクロン背後霊は退散。熱くなっていた体が冷えてみょうにスースーする。憑き物が落ちるとはこのことだ。
いつも購入するこのKカメラは新着商品の更新を火曜日にする。今回も火曜の更新で見新しい物が無いのを確認して注文したのだが問題は水曜日が定休日ということだ。手に入るのが一日遅れるので待ち遠しいのかって?いえいえ違うのですね。問題は考える時間がたっぷりあるということです。考えても見てください。欲しい欲しい熱が最高潮に達した時に、ええい!注文だ。と勢い半分で「注文」ボタンをクリックしたのに一夜明けて冷静な状態に戻り、なおかつ考える時間が与えられる訳ですから。「本当に必要かい?」「後悔しない?」「いや買わない方が後悔する。」「ズミクロンよりズミルックスの方が合っているんじゃない?」「どちらにしろいつかは買うのだし、今だよ今、一期一会と言うでしょ。」「今ならまだキャンセルできるし。」「極上品でこの値段なら買いでしょ。」と白い服の僕と黒い服の僕が一日中議論をしていて何も手に付かない訳ですよ。
ここで伝家の宝刀、「理路整然とした詭弁」を使ってこの議論に終止符を打ちました。(だって、結論は決まっているんだもんね。)
1.ズミクロン神話が気になるのなら早く解決した方が後の写真生活が平穏だ。
2.中古品には一期一会は本当にある。今までも「きっとこれを買うんだな。」と感じたものは間違いの無い商品だった。
3.ズミルックスを買ったからと言って8枚玉を買わないという事はありえない。
4.結局は買う順番を決める議論に過ぎない。
商品が到着するまでに期待が膨らむのと反比例して預金残高が急降下したことは言うまでも無い。(ライカにはもっと高いレンズがいっぱいあるのに「やっぱり高いぞ8枚玉」と思わせるのも神話のなせる業か。) |
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製造番号#1743912
1960年カナダ・ライツで製造された。 |
絞りを挟んで対称にレンズが配置されている。
6群8枚構成
このようにヘリコイドが丸見え、
こまめなメンテナンスが必要ということだ。
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ズミクロン50mmは世界的評価は高かったものの
35mmレンズの開発で遅れをとっていたライツ社が
このズミクロンで世界のトップに肩を並べた。 |
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| 手元に届いたレンズは製造番号#1743912、1960年製造のカナダ・ライツ製です。ライカはドイツに限るという人も多いのですが、私は全く気にしません。どちらかというとカナダ製のほうが好きなぐらいです。(一部のものを除いてカナダ製のほうが安いので特に好きです。笑) |
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空が写りこんでコーティングに反射する。
いかにも良く写りそうだ。
...そうだという気分は写真では大切だ。 |
エングレーブ(掘り込み)もこの時代のものは丁寧だ。
最近のものはライカに限らず
機械で穴を掘ったというだけの作りだ。 |
インフィニティーストッパーと指あて。
ボディーサイズの割りに大型だ。普通はボディーと
バランスを取ろうとしてデザインが優先され使いにくい
指あてになってしまうところだが、使い易さ優先か? |
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描写は神話どおりか? |
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| これを読みに来てくださった方もこの章が一番気になるのではないでしょうか。そうです。神話に決着をつける時が来たのです。TV番組か週刊誌ならきっとこんなタイトルになるのでしょうね。「今あかされる神話!!」「神話の向こうに見えたものは...?」
詳細に描写を比べるなら同じ被写体に向かってレンズをとっかえひっかえしながら絞りを変えたり、遠景や最短距離で撮った写真を比べることが一番分かりやすいのかもしれませんがそういうことは一切していません。最初にこのレンズで撮ったプリントを見た第一印象と今までに他のレンズで撮影した写真と見比べた感想です。
まず最初にプリントを見た時の印象は「普通の写りだな」です。プリントを持った手が震えるほどの描写なんて書き出しで始まれば「神話のレンズ」らしいのですが、少し拍子抜けするぐらい普通の写りです。コントラストが低いなどと言われますが低いというほどではありません。文章で書けば「低い」よりは「低め」という程度です。絞り込んでもコントラストでシャープになるというより解像度で見せるズミルックス50mmと同じようなタイプです。ただし元々私のプリントは写真雑誌などに掲載されている写真と比べるとコントラストの低いプリントです。ですから一般的な見方をするとコントラストが低いと言えるのかもしれません。
特筆される立体感ですが、これはそのとおりでバックとの距離の取り方にもよりますが絞り値f4〜f8あたりが一番立体感が出ます。それ以上絞ってもあまり変化がないように思いますがバックのボケが形になってくるので立体感が薄れるように感じるのかもしれません。形を残してボケていくと言われていることと立体感は関係あるのかもしれません。ボケ味は最近の非球面レンズのように溶けるようなボケではないのでバックがにぎやかだとうるさくなりますがピントの合った部分の立体感に助けられるようです。
この立体感というのは絞り込んでも中心部分の鮮鋭度に比べ外周部分の鮮鋭度がよくないので出るものと思います。写りが悪いというところまで行かずにバランスが取れたところで踏み止まっているところがこのレンズの特徴(良さ)になっています。完全なレンズなんてありませんしそもそも完全ということが何かさえ分からないと思います。数字やグラフが示す値が最高で化学や物理の実験などに使われるのなら「完全」「完全な」という言葉に意味がありますが写真用のレンズには「完全」という言葉に何の価値もありません。あるとすれば自分をどれだけ満足させてくれるかということだけです。また「完全」というものがあるとして全てのレンズが「完全なレンズ」になったとしたら写真は詰まらない世界になるでしょう。ズミクロン8枚玉も35mmレンズの「唯一無二」でも「最高」でもありません。ズマロン35mmf3.5(メガネ付き)というレンズがあります。金額で比べれば8枚玉の1/5程度の値段のレンズですが描写に関してはこちらの方がいいというプリントがあります。その場の雰囲気(撮影者がそう感じたあるいはそのように表現したい。)に合った写りになっているからでしょう。色々な写りがあるからこそ楽しい世界なのですからこの「神話のレンズ」と言われるズミクロン8枚玉も写真を楽しくしてくれるレンズの一つであることは確かです。
モノクロ写真をする人に「いいレンズですか?」と聞かれたら「いいレンズです。」と答えられますが僕がカラー写真をしていたらおそらくこのレンズは買わないでしょう。ズミクロンなら非球面の最新型にするかもっと違ったレンズを選びます。
タイトルの「描写は神話どおりか?」の答えとしては1960年代の発売当初の評価が一人歩きをした結果だと断言できます。現在では数値的には8枚玉以上のレンズはたくさんあります。またそれぞれの特性、解像度やコントラストなどが秀でたレンズも数多くありますが8枚玉の良さは写真を写すレンズとして全体のバランスをうまく保っているところにあるようです。
近年収差と写りの相関関係がかなり解明され、収差を意図的に残したレンズが発売されています。「オールドレンズの味」ということで人気がありますが8枚玉の収差は神様が意図的に残したとすれば「神話」である。当時の技術力ではレンズ特性がここまでしか解明できなかった結果なのでしょうが「神話」として残しておいた方が楽しいというものです。
モノクロではという注釈付ですが、買って損はしないレンズの一つです。値段の高さには?ですが、これは需要と供給という経済の話で写りとは何の関係もありません。
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| (*)使用ボディ:LEICA M2、フィルム:Tri-X(EI200にて使用)、現像液:XTOL(1:1)、定着液:フジスーパーフィックス、引き伸ばし機:フォコマート1c、引き伸ばしレンズ:フォコター50mm、印画紙用現像液:DEKTOL(1:2)、印画紙:オリエントG2、フォルテ・ミュージアム2号、アグファMC118(ノーフィルター)イルフォード・マルチグレードWFB(ノーフィルター)によってプリントされた結果に基づいての主観です。 |
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購入に際しての注意点 |
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中古価格の高さが災いして素人や素人に近い業者が分解清掃した見せ掛けの美品も出回っているようです。手間を掛けてきれいにすれば高値で売買されるからです。また再研磨されたレンズも数多く出回っています。それらを我われ素人が店頭で見分けるのは至難です。解決策は「信頼できる店で買う。」これしかないようです。再研磨されているのなら「再研磨物です。」とはっきり答えてくれる店で買うことです。後々再研磨であったり再コーティングであったりしたことが分かった時にもちゃんと対応してくれる店で買ったほうが安心です。ただし再研磨物でも再コーティング物でも写りがあなたのお気に入りならばそれでいいのです。コレクターでもない限りオリジナルに拘る理由はありません。
製造番号で「当たり玉」や「はずれ玉」という話がありますが古いレンズですので経年による不良の方が問題です。ライツは他のレンズでも同様ですがコーティングがしばしば変更されています。よりよい材料や方法があれば直ぐに採用したようです。コーティングの違いは写りに関わりますが製造番号の何万番台が特別なように言われているのは間違っています。
時代の要望に適した写りを求めた結果が違いとなって現れています。この時代の要望というのはまさしく天然色フィルム、カラー写真の台頭と関連しています。カラーの再現性が重要視されだした時代ですのでレンズのコーティングもカラーフィルムに対応するための変更が重要視されたのだと思います。ただし当時のカラーフィルムの話であって現在のカラーフィルムと比べれば再現性には雲泥の差があります。フィルムのパッケージに「天然色」という文字が書かれていたこともなつかしい思い出です。
カラーフィルムの開発とレンズの開発が二人三脚でカラーに対応しようとしたカラー時代の過渡期のレンズなので後期のモデルになるほどカラーフィルムへの対応が進んでいると思われ、それがコーティングの違い、写りの違いになっていると思います。他のレンズ選びでも製造番号によって選ぶよりも当時の写真界の背景から見てみる方がレンズの描写を推測する手助けになりそうです。結果何万番台のレンズの写りがという話が浮上してくる訳です。 |
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おまけ |
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ズミクロン35mmF2.0(左)とズマロン35mmF2.8(右)
どちらも1958年のフォトキナで発表された。
レンズの構成は4群6枚(ズマロン)、6群8枚(ズミクロン)になっているがズミクロンの中央の絞り羽根を挟んで配置されているレンズ2枚を無くすとズマロンと同じ構成になる。同時期にズミクロンはカナダでズマロンはドイツで開発製造されたのだが外観のデザインや作りはほとんど同じだ。この後レンズ開発の中心はカナダ・ライツに移っていく。
外観の違いで最初に気が付くのはレンズの径と位置の違いです。フィルム面からレンズが遠ざかると大きくなるのでしょうか。レンズの大きさと写りの因果関係は分かりませんが、ズミクロンの方が「良く写るぞ!」という顔をしています。
レンズの先端部分のメッキはズミクロンはボディーと同じ肌理の細かい梨地のメッキ仕上げですがズマロンはボディーの仕上げとは違って光沢のあるメッキ仕上げになっています。フードで傷が付きやすいのでズマロンは硬度の高い光沢のあるメッキ仕上げにしたのだろうと推測しますが、後期のモデルではズミクロンと同様な梨地のメッキに変わっています。デザインの共通化を図ったのかどうか分かりませんが手間はこちらの方が掛かるのでローコスト化を図ったようではないようです。
工芸品のような作りとインフィニティーストッパーの「パチン」という音がカッコイイとよく言われます。私もそれは認めますが、それだけの理由で「8枚玉」を買うのならズマロンで十分だ。でもそんな理由で買われたレンズはかわいそうだなぁ。 |
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