33.ライカのレンズ


描写の「味」という不確かなもの。

 レンズの描写の話になると必ず出てくる言葉に「レンズの味」と言う言葉があります。MTF曲線や各収差のように客観的な数値で説明出来ない部分、あるいはその各収差を含め「レンズの味」と言う言葉で説明されます。
  「このレンズは写りは悪いのだが味がある。」などと訳の分からない言葉も出る始末で、味があると肯定しているのならその写りは良いということなのだから文章としては否定の否定ということになる。まあこんなあげ足取りはやめておくことにして、「数値的には良くないがなかなか良い感じに写っている。」ということだろう。
  最新のズミクロン・アスフェリカルに至っては非の打ちどころが無いほどすばらしい描写だが往年のレンズのような「味」がない。とよく書かれています。色々な歪を排除し光の状態にも影響されない見たままに写るという光学技術者の努力が「味」がないの一言で否定されたりします。このズミクロンのようにどこまでもクリアーに写ることもそのレンズの「味」ではないでしょうか。「味」というものは全てのレンズが持っているそのレンズ固有の癖の総称のことでいかにも「味がある」と言えば良いように聞こえますが本来はそのようなものではありません。ただその写りが本人の気に入った描写である場合に「味」という肯定的な表現に使われている訳です。食べ物と同じように薄味が好きな人、濃い味が好きな人といるように「味がある」といわれてもその「味」があなたに合うかどうかは分かりません。また評論家や写真家が「味があって良い」などと書かれたものを読んでその「味」が自分には分からないので「まだまだ未熟」「これを分からなければならない」などと考えることも本末転倒です。
  あなたのお気に入りがあなたの口に合った「味」なのですからもっと自分の味覚に自信を持っていいのです。しかし「これも美味しいしこちらも美味しい」ということや「ステーキは好きだけど朝からじゃなぁ〜、コーヒーとトーストの方がいいなぁ」ということも間々あることです。被写体や撮り方によってはいまいちと思っていたレンズにドキッとさせられたことはありませんか?だから色々なレンズを使ってみたくなるのでしょうね。・・・いやいや!レンズを増やす口実ではありません。これを読んでいるあなたも賛成してくれますよね???

雑誌の作例、評価をどう読むか?

 たとえばズミクロンの8枚玉は6枚玉や7枚玉と比べて本当に描写に違いがあるのか自分で手に入れて確かめてみようとするとレンズ3台分で約40〜50万円、さらにドイツ製とカナダ製ではどうか、作られた年代によってコーティングが違うのでその描写はどうかなどと確かめようとすると軽く100万円は掛かります。それを出来る一部のお金持ちは別としてわれわれ庶民はなけなしのお金を使う訳ですから本に書かれたことやこのNET上に書かれたことを参考にしようとする訳です。皆が褒めていれば安心するし貶されていれば不安がもたげるのは人情というものです。
 が、しかし雑誌の作例などで本当に解りますか?もちろんフレアーやゴーストの量や形のようにはっきりと違いが分かる現象もありますがこれとてある条件でという注釈つきです。ましてや小さな印刷画面で解像されているとかグラデーション豊かといわれても私には良く分かりません。
  おそらく私も含め多数の人たちはその解説に書かれた文章の文字を認識して「そうなんだ」とインプットしているように思います。また現行品の場合は悪く書かれることは稀です。雑誌のスポンサーの悪口はやっぱり書けないでしょう。では雑誌の評価は全く当てに出来ないのかというとそうでもありません。作例からも文章からもその傾向を読み取ることは出来ます。その傾向が自分に合っているのかどうかあるいは自分の望んでいるものなのかどうかという一種の推理ゲームのようなものです。
 もう一つの読み方としてはその記事を書いている写真家の癖を読み取ることです。写真家も人の子ですから癖や好みがあります。コントラストがキツイというコメントがあってもA氏とB氏では元々の好みが違うのでどれほどのキツサかは解りません。ただ両人ともコントラストが強く出ると感じていることだけは確かです。また自分と似た好みの写真家のコメントが参考になることもあります。
 次に時代性というものがあります。そのレンズが開発され製作された時代のニーズやコンセプトです。簡単に言うとモノクロを重要視していた時代なのかカラーを重要視した時代なのか、解像度からレンズを見ているのかコントラストから見ているのかという時代の要求度です。もちろん解像度だけ、コントラストだけというように単純には開発されてはいないのですが時代の背景によって銘柄が違っていても同じような傾向にある場合があります。これも加味しておけば選択の参考になります。

使ってみなけりゃ分からない。

 同じレンズの評価でもコントラストが低いと表現する人もいるし、やさしいと表現する人もいます。同じ描写でもコントラストが低いと言われれば否定的に聞こえ、やさしいと言われれば肯定的に聞こえます。
  私の好きなレンズにズミルックス35mmがあります。どの時代のものが自分に合っているのかと思案中でまだ購入には至っていないのですが、ズミルックスといえば必ず言われるのが開放時のゴーストやフレアーが出るじゃじゃ馬的な描写の話になります。また雑誌などでもそのように紹介されますしゴーストやフレアーの出た作例を掲載するのでよりいっそうそういうレンズだと認識してしまいます。実際そのように写っている訳ですから嘘ではありませんがそれは有る条件下ではこのように写るというだけです。少し絞り込んだときの描写はズミクロン以上にクリアーで精緻です。クリアーさの表現方法がズミクロンはコントラストでズミルックスは解像度で表現しようとしているように思います。もちろんどちらが良くてどちらが悪いというようなものでもありません。単に好みの問題です。このように雑誌などでは一部の表現だけが突出して取り上げられたりしますのでそこから全体像をつかむのは難しい場合もあります。
 現行品のレンズはともかくライカのレンズは古いものが多く30年前、40年前あるいはもっと古いレンズが実用されています。同じ銘柄でも時代によって構成が違ったりレンズの硝材が違ったりしていますしコーティングに至ってはもっと頻繁に変えられています。それらは写りの違いとなって現れます。また私たちの手に届くまで新品のまま保管されていた訳でもなく色々な人たちが色々な場所で使ってきた物なので経年による劣化の度合いはそれぞれ違います。よく○○のレンズは製造番号が○○万番台がいいとか、カナダ製よりドイツ製がいい、初期のカナダ製・・・後期のウェッツラーが・・・コーティングはブルーに限る・・・いやコーティングは紫系が・・・160万番台が・・・100万番台直前の・・・ets・・・などと言われるのはこのような違いから言われるのでしょうがこれもまた絶対かと言えばはなはだ???なところもあります。また何を大事にするかという個人の好みによっても評価は違ってきます。
 

 雑誌の作例やNETの情報を参考にすることは決して悪いことではない(全てを自分で確かめることなど出来ることではないのだから)が最終的に決めるのは自分自身です。人の言葉に惑わされること無く(惑わされっぱなしです。)自分に合ったレンズを見つけたいのですがやっぱり使ってみなければ分からないというのが本当のところですね。


所有したい。

 ライカレンズのもう一つの魅力は写りや実用とは無関係に物としての魅力です。デザインのよさ、作りのよさです。絞り環やヘリコイドを操作しているだけでもウットリさせる魅力があります。そんな戯言をと言われそうですが、そんな戯言なのです。

メガネ付きレンズ
 ズミルックス、ズミクロン、ズマロンの35mmレンズはM3のためにM3の50mmフレームを利用して35mmの画角を表示させるためにファインダー窓と測距窓に逆倍率をかけるためのレンズを装備したレンズ、エルマーリート135mmのように90mmフレームを135mmとして使えるように1.5倍の倍率をかけるためや近接ズミクロン50mmのように接写出来るようにしたアタッチメント付きのレンズのことなのだがその作りの精巧さとライツの知恵に感動すること請け合いです。実際の使用に際してはもちろんメガネの無いものの方が使い易いことは確かですがメガネ付きレンズも思ったほど使いにくくはありません。ずんぐりとなって持ちにくいのでむしろ重量増になることの方が問題です。しかしその姿の良さに所有したくなってしまいます。
 もう一つのメガネ付きレンズのよさはズミルックスのメガネ付きレンズ以外は同じレンズのメガネ無しと比べて大変安価なこととあまり使用されなかったのか美品が多いことです。超有名なズミクロン8枚玉もメガネ無しでは20万円を軽く上回る値段ですがメガネ付きなら半額で手に入れることが出来ます。もちろんレンズ本体は同じものです。

ズミクロン90mm2ndバージョン クローム仕様
 素直なボケ味とピントの合ったところのバランスの良さで定評のあるレンズですがその大きさと重量でなかなか購入に結びつかないレンズです。メッキの美しさやローレットの作り込みは感涙ものです。実用には小型軽量化された最終バージョンの方が使いやすいのだろうがM3やM2に付けたときのデザインの合わなさと言ったら・・・写りには関係ないのですがね。ライカの他の中望遠レンズと同じで人気の無さが幸いして広角系と比べるとリーズナブルです。グラム単価では一番安いかも(笑)。

ズミクロン35mmF2.0 1stバージョン
 ライカファンには神格化されたあの8枚玉です。写りに関しては噂ほどではない。きっと6枚玉の初期のものやズミルックスの方がいいに決まっている。と常日頃思っているのですが作りの美しさと、写りを自分の目で確かめてみたい気持ちでやはり一度は使ってみたい。

スーパーアンギュロン21mmF4.0
 ドイツの光学メーカー、シュナイダー社から供給されていた広角レンズです。周辺光量や歪曲が改善されたスーパーアンギュロン21mmF3.4の方が総合的には優れたレンズといえるのだがそのスタイルと特徴のある画質がなかなか捨てがたい。本体よりフードの方が稀少で値段が高いライカのフードの中でも、もはやフードの値段とはいえないプライスタグが付いている。

エルマーリート28mmF2.8 1stバージョン
  このレンズも対称型崇拝者に神格化されているレンズです。後球が飛び出しているのでM5やCLの測光アームに干渉して使用出来ないし(後期には測光は出来ないが装着出来るようになった。)M6やM7でも正確な測光値が出ません。写りに関してこの1stバージョンが特別扱いされていますが2ndバージョン以降も素直な写りで、ライカレンズの中でも柔らかな描写のレンズです。新しいバージョンになるほどコントラストが上がりカラーの発色がニュートラルになっています。とにかくカッコの良さでは1stバージョンの右に出るものは無いのだが30万円に手が届きそうな値段を考えるとおいそれと購入出来ません。実際に購入するのだったら初代のデザインと似た2ndバージョンかライカレンズとしては値頃感のある3rdバージョンになりそうですが1stバージョンも一度は使ってみたいレンズです。


 所有したい。欲しいなどと書き出すと際限がありません。高額なレンズ、有名なレンズだけが良いレンズではない事は百も承知しているのですがやっぱり使ってみたいと思わせるだけの「物としての輝き」があります。こつこつとお金を貯めて手に入れたり、いつかはと楽しんでいられることもレンズの楽しみの一つかもしれませんね。ただ安いレンズだから、暗いレンズだからいい写真が撮れないなんて言っているのは唯の言い訳に過ぎません。いい写真とレンズの描写の相関関係なんて100万分の1くらいの関係しかないのですから。