19.黒く塗れ(Peint it Black) M2編

   

 

 

 「Paint It Black」(黒く塗れ)といえば我々の年代ですとローリング・ストーンズの歌となるのですが、今回はLEICAを黒く塗ることにしました。しかし、なぜ黒いカメラを欲しがるのかまたは黒く塗りたいのでしょうか?黒い色に対する憧れのようなものがあるのかもしれません。特に日本人は古くから漆器などの漆の色が遺伝子の色情報に書き込まれているのかもしれません。特に漆の黒はジャパン・ブラックと訳されるほどです。また塗料で塗られた表面の感触や温度感のようなものも気持ちがいいと感じるのかもしれません。それと色が剥げてきた状態を決して汚いとか古臭いとは思わないのも日本人の持つ「侘びと寂び」と関係あるかもしれません。別にカメラの世界にワビサビの世界を持ち込む必要も無いのですが、単にカッコイイでもいいと思います。カメラが黒くなったところで腕が上がる訳ではないことは百も承知なのですが、黒いライカってやっぱり興味があります。1台は持ちたいと思うのですがオリジナルはとても手の出るような価格ではありませんし黒いライカに興味があるだけでオリジナルにこだわりません。アフターペイント物でいいのですがこれもいざ買おうとするとオリジナルと違う塗装だったり、塗装箇所が違ったりします。黒塗装が禿げて来ている様子もかっこよかったりするのですが、出来れば自分の手で使い込んで剥げ禿げになって欲しいので手持ちのライカを塗ることにしました。
 ライカを黒く塗ることを決めても、どのライカを黒く塗るか悩みます。黒いライカと言うとブレッソンのM3、高梨豊のM4かあるいは石元康弘のM2が思い起こされます。それで今回は憧れの石元康弘氏にちなんでM2を黒く塗ることに決定しました。また我が家のライカの中では一番の古参であるM2のメンテナンスも兼ねることにしました。
  メンテナンスとペイントをするとなると安いライカを1台買う位の費用がかかります。どこで修理とペイントをしてもらうかが問題です。修理とペイントをそれぞれ専門の店に出すのがベストな方法だと思いますが、価格も一番高くつきます。色々と調べては見たものの結果は何も分からずと言うところです。自分で一度経験してみないと仕方が無いようです。
  修理とペイントが同時に出来る店と言うことと価格表示がウェッブサイトに細かく表示されていたルミエールにお願いしてみることにします。ルミエールはただ修理をするだけではなく「ルミエールチューン」といって巻き上げやシャッターの感触など操作フィーリングにこだわった修理のようです。黒色になったはいいけれどカメラとしての機能がないがしろにされては本末転倒といったところです。何色になろうともライカは写真を撮る機械なのですから。
 シャッター音が大きく、金属的な響きになってきたM2がどの様になって帰ってくるでしょうか楽しみです。
 東京都大田区のルミエールに5月に予約を入れ、作業開始は8月7日予定となっていました。7月30日に送ってくださいと言うメールがルミエールから来ました。翌31日に発送。8月17日に明日完了しますと連絡が有り、ようやく8月21日にオーバーホールとブラックペイントが完了し帰って来ました。予約から完了まで3ヶ月余りかかった事になりますが手元を離れていたのは20日ほどです。お盆の休みを挟んだこともあって通常より少し日にちがかかったようでした。


オリジナル
 
アフターペイント後
     

←こうして写真に撮ると傷がいっぱいの我がM2もなかなかの男前(女性名詞だから美人か)に写っています。リワインド解除がボタン式、明り取りが内ギザ、セルフタイマー無しの初期型です。

→アイレット部分も塗装。(オリジナルブラックモデルでも塗装ありとクロームメッキのものがあります。)ストラップ金具で直ぐに剥げてしまう所だが、チョットこだわって見ましたがこのこだわりにはグッタベルカの張替えが必要なので高くつきました。
 アイレットに丸カン を通すのにも気を使いそう。

     
     

←シルバークロームの背面
グッタベルカを自分で張り替えているのでこのバックドアの部分のみオリジナルでした。 写真では判りませんが同じ張り皮を使用しているにもかかわらず自分で張り替えた物(結構うまく張れたと思っていました。)とプロの手になる物との仕上げの差は一目瞭然。

→フィルムインジケーターもオリジナルと同様の塗装に、バックドア左右の金属部分の縮緬塗装はもう少し細かい方がいいと思う。

     
     

←オリジナルのトップの様子
文字もずいぶん薄くなっていました。特にフィルムカウンター部分。

→この姿が見たかったので黒塗りにしたと言ってもいい。ダイヤル類の文字の視認性が良くなったが、そんなことよりただ美しいとしか言い様がない。

 フィルムカウンターの目盛りと指針が微妙にずれていたが直ってきた。

     
     

←文字のアップ
写真ではフィルム巻き戻しノブの上下部分に小さいアタリがある。

→写真では解りにくいが小さなアタリは完全に修復されている。巻き戻しノブの回転確認用の赤い点々も色鮮やかでまるで新品。(と言ってもM2の新品を見たことは無いのですが) 普段は見えない部分ですが巻き戻しノブの軸部分も塗装されています。

     
     

←裏ブタ部分
  オープン、クローズの表示があるのはM2まででM4からは表示がなくなった。表示があろうと無かろうと機能には関係のないことですが、表示があるほうがカッコイイ。

→裏ブタもこんなにきれいだと置く時に気を使います。

     
     

→ツヤをオリジナルと同等にと、お願いしたのですがルミエールの標準はM4ブラックを見本にしているそうです。
  ツヤの程度をどれくらいにしましょうかとルミエールからTELが有り、電話でやり取りをしたのですがお互い新品のM2やM3のブラック塗装を見たことが無いですよね。と言う話になりました。私達が見ているのは掌で擦れた状態の物でおそらく新品の時よりツヤが出ているのではないだろうか、その分を差し引いてもM4ブラックよりもう少しツヤがあったようですねという結論に達し、M4ブラックより少し多い目にツヤを出してもらいました。

     
     

→半ツヤを作るのは塗装で変えるそうなんですが、塗装だけでそのツヤを出そうとするとボテっとするそうです。磨きの加減で適当と思われるツヤを作り出すそうです。職人芸ですねぇ。M6TTLのペイントモデルと比べるとこちらの方がツヤがあるのでシャープな印象です。

 ファインダーもクリアーになり正面から覗き込むと内部もすごくきれいになっています。
  巻き上げもスムーズ、シャッター音も小さくなり金属の響くような音は無くなりました。
 各部の動作も問題が無いようです、後は実際に使ってみての判断です。

     

 

   

←こうして見るとシルバークロームのボディーもなかなか美しい。セルフタイマー無しがシンプルで一番M2らしいです。

→ズミクロン35mmとの組み合わせ、この世の中で最も美しい姿の一つである。
  使い込んでいくとツヤツヤに、やがて剥げ禿げに・・・そして自分だけの1台になるのです。

 

 戻ってきたM2を見た第一印象は自分のM2が戻って来たというより、新しいM2を買った気分です。美しすぎてどこを持っていいものやら・・・
ルミエールからは塗装のツヤに関して、どれくらいのツヤを望んでいるのか確認の電話が有りました。修理や塗装に出している身としてはこういった配慮は大変うれしいことです。新品のブラックモデルなど見たことが無いのですから、 出来上がった物がM2ブラックモデルのオリジナルのツヤと同等です。と言われれば、納得してしまうのにわざわざこちらの考え(感覚)を理解しようとしてくれます。お互いが納得できる物を提供しようという姿勢は大切なことと思います。いくら仕上げが良くても、素人は何も言わなくても私に任せればいいんだと言う態度をとられるとチョット?ですね。
 ルミエールの「人」を選んだことは正解のようです。「技術」に関しては少し使ってからの判断になりますが・・・どうでしょう。使用感は後日追記します。

 植田正治氏は「スランプに陥ったらカメラを変えろ。」と言いました。「カメラを変えると写真が変わる。」とも言います。果たしてこのM2で写真に変化があるのでしょうか?
  ライカを黒く塗るのには、へたなライカを1台買う出費が必要です。黒く塗ることの意味は自己満足だけでしょうか?
結論から言うと自己満足だけだと思います。しかし写真を撮る行為そのものが自己満足の達成に他なりません。暗室で四苦八苦したりレンズの描写に一喜一憂したりしていることすべてが自己が満足するかどうかと言う尺度で行っていることです。私のような根性無しには使っていて楽しい(うれしい)カメラを持つということでいい写真が撮れそうな幻想が必要なようです。
  出費した対価があったかと聞かれたら十二分にと答えられます。誰にでも勧める訳ではありませんが新しいカメラを買おうとしているのならOHも兼ねて再塗装と言う選択肢も加えてみたらどうでしょうか?

 M2はこの様になって仕上がって来た訳ですが、ここで新たな問題が発生。シルバークロームのM2もやっぱりいいですね。欲しい〜!

<追記>戻ってきて最初に巻き上げたときから「オッ、スムーズな動き。」と実感します。数ヶ月使用してみると他のM型と比べても断然各部の動作がスムーズです。節度ある動作というのか、曖昧な感じがありません。シャッター幕や他の部品の交換を必要としなかったオーバーホールなのでクリーニング、油脂類の塗布と調整が主な作業だったと思いますが操作感は全く違います。もちろん良くなっている訳です。オーバーホールの大切さが実感できました。
  新しくボディーを増やすのならその金額で3〜4台のオーバーホールが出来ます。その方がカメラにも愛着が湧くってもんです。「シルバークロームのM2もやっぱりいいですね。欲しい〜!」なんて書いている誰かさんに言ってる訳ですが。
 本当に撮影が気持ちよくなります。皆さんもお試しあれ〜。ルミエールさん次回もお願いしま〜す。(Dec/13/2004)