第21回 Plus−Xを極める

     
   「Plus−Xを極める」なんてたいそうなタイトルですが、フィルム感度と引き伸ばし機に合ったコントラストを求めるために実験をしました。
さて、予想したような好みのフィルムだったでしょうか?

フィルムの特性曲線

 右のグラフは代表的なモノクロフィルムの特性曲線を表しています。分かりやすいように少し極端に描いています。現像液の種類によっても多少変化しますが基本的にはこの様なラインを描きます。

 グラフの左端(足と言われる部分)ではどのフィルムでも同じような曲線を描いていますが右端(肩の部分)ではずいぶん違っています。足の部分はフィルムの透明になる側で肩と言われている部分はフィルムでは黒い部分です。プリントすると逆(ネガですから)になります。

 直線に真っ直ぐ伸びていくタイプはハイライト部分の表現が良いと言えますが現像時間やプリントの露光時間が少しでもオーバー気味になるとハイライトが飛んでしまいます。反対に傾斜が寝てくるタイプは現像時間が長くなってもハイライトの諧調が残りやすいタイプです。

 足や肩のカーブだけではなく中間の描き方や勾配の違いでも出来上がったプリントの印象は違います。どちらが優れているかではなく現像やプリントの仕方、引き伸ばし機の違いや印画紙の違いもあり、最終的には出来上がったプリントの表現がどちらの傾向のフィルムに自分の好みが合っているかだと思います。


Tri-Xが好き

 普段常用しているフィルムはTri-Xです。サイトやブログのあちこちに書いているようにTri-Xの粒状感が好きです。PRESTOも時々使用しますがTri-Xより微粒子に仕上がるフィルムです。客観的にいうと美しく仕上がるPRESTOの方が優れたフィルムと言えるでしょう。が、ツブツブが残るTri-Xに写真らしさや現実感というものを見いだしているわけです。しかし好みと言うのはわがままなもので写真の対象や表現の仕方によっては微粒子や超微粒子といわれるフィルムも使いたいときがあります。(本当は粒子感だけじゃなくて表情の違うフィルムを使いたいのかもしれません。)

 微粒子、超微粒子といわれるフィルムはフジのACROSS、イルフォードの100DELTA、コダックのT−MAX100が代表的なところでしょうか。とにかく使ってみようということで3種類とも使って見ました。実効感度、現像時間や現像液も変えて試して見ましたが今ひとつ「なんだか違うな〜。」なのでした。
 ACROSSの本当に超微粒子と感じる画質や、物の存在が際立つ100DELTA、中間域が美しいT-MAXとそれぞれのよさはあるのですが全体像として自分の思っているイメージとは「なんだか違うな〜。」です。

   
 それから2年たち(もう2年も過ぎたのかよう!...というツッコミはなしで。)相変わらずTri-XとPRESTOで撮影していたのですが、あることに気が付いたのです。上の特性曲線を見てください。「なんだか違うな〜。」と思っていたフィルムは全部、赤い線で表現されているグループなのです。好きなTri-XもPRESTOも青い線で描かれているグループです。(もっと早く気が付けよなぁ〜。)一概に特性表だけでは判断出来ませんが試して見る価値はあるようです。Plus-X!

Plus-Xは
どのようなフィルムか?

 青い線で表されるような特性の低感度(低感度の方が微粒子だろうという予測、といってもISO100)のフィルムにはコダックのPlus-XとAGFAのAPX100がありますがTri-X好きの僕としてはまず候補に挙げたのがPlus-Xというのは自然な流れだろう。

 コダック プロフェッショナル プラス-X 125フィルムは、一般的な屋外撮影やスタジオ撮影に適した、中庸感度、中庸コントラストのパンクロマチック フィルムです。また、このフィルムは粒子が非常に細かく、解像力が高いという特長を持っています。(コダックの資料より)

と書かれていますがどこのフィルムメーカーでもこのようなことが書かれているので結局はよく分からん。とにかく粒子は「非常に細かい」らしい。「細かい」と書かずにわざわざ「非常に細かい」と天下のコダックが書いているぐらいだからなぁ???

 NETで調べてもPlus-Xの使用者は少ない。ポートレイトやファッション写真のスタジオ撮影ではよく使われていたようだ。(ようだ。というのは最近はデジタルです。)しかし数少ない使用例を見た感じでもなかなかいけそうな雰囲気です。


感度と現像時間を求める

 暗室雑記の「第18回 フィルム現像の話・3 (フィルム感度)」で感度の求め方を説明していますので詳細は省きます。いつものようにゴソゴソと実験してフィルム感度は50と64の間ぐらいがよさそうですがカメラの絞りや露出計の関係で中途半端な値では換算が大変ですのでとりあえずEI64として実験を続けます。(現像液はMicrodol-X1:3)

 今度はフィルム感度を64に設定し段階露出で撮影したフィルムを6本作ります。そのうち3本をMicrodol-X原液で、残り3本をMicrodol-X1:3の希釈液で現像してみます。感度を求める時の現像時間とメーカー発表値を参考に現像時間を想定します。基本的にメーカー発表値は散光式の引き伸ばし機に対応した数値になっていますので私のように集散光式の引き伸ばし機を使っている場合はメーカー値よりは現像時間は短くなります。(コントラストを落とす。)

 原液での現像時間を6分、7分、8分と1:3の希釈液で11分、12分、13分(いずれも液温20℃)で普段通りの手順で現像−停止−定着−水洗を行ない乾燥を待って見比べてみます。原液使用では6分と7分あたり、希釈液では11分と12分あたりがよさそうです。今度はもっと現像時間を正確にするために同じように段階露出で撮影したフィルムを4本作って原液での現像を5 1/2分と6 1/2分、希釈液で10 1/2分と11 1/2分という前の実験の中間の現像時間で試して見ます。

 最終的にはMicrodol-X原液で6分30秒、Microdol-X1:3の希釈液で12分という現像時間が好結果だった。


最終チェック

 段階露光をしたテストピースからPlus−Xに適した感度と現像時間を求めた訳ですが今度は実際に撮影したフィルムで好結果だった現像時間を中心に±30秒の時間を設定して6本のフィルムでチェックします。テストですから空のパトローネに10枚分ほど巻いてもいいのですがここは正確を期して(他に不正確な要素はいっぱいあるのだけれどね。)普段通りに36枚撮りで6本撮影し各個6回現像作業をします。

 Microdol-X原液で6分、6 1/2分、7分、Microdol-X1:3の希釈液で11 1/2分、12分、12 1/2分と面倒ですが実際に撮影したフィルムでチェックしてみます。
 撮影当日は時々雲間から日が差したり、薄曇の中での撮影でしたので被写体のコントラストは中庸だと思われます。

 現像時間の違えた6本の中から濃度の分布が同じような感じのネガ(厳密に行なうなら6本共同じ光線状態で同じ被写体を撮影すべき。)を一枚ずつ選びプリントして見ます。プリントはもちろんストレートでOKです。

 露光時間も真っ黒になるべき所が最短露光時間で真っ黒になった露光時間(http://www.tokyo-photo.net/TOKYO PHOTO NETの苅尾邦彦氏が最短時間最大濃度法 と書き表しています。)を使って露光して出来上がったプリントを検証して見るのが一番です。なぜなら各メーカーの現像時間による「フィルムの特性曲線」を見てください。曲線の足の部分(プリントのシャドー部分)では現像時間の長短に関わらず濃度の変化は小さく、主に肩の部分(プリントのハイライト部分)は現像時間の長短で変化は激しいのでシャドー部分がどのネガも同じような真っ黒になった時にハイライト部分を見てみると印画紙のベースの白までをうまく使い切っているか、真っ白になりきっていないか、ハイライトの諧調が飛んでいるか、の判断が付きやすいと思います。

 もっとも一度のプリントでシャドーからハイライトまで完璧という訳にはいきませんがMicrodol-X原液で6分、6 1/2分、7分、Microdol-X1:3の希釈液で11 1/2分、12分、12 1/2分と現像時間を変化させたネガの中で、一番印画紙の濃度幅を使いきれているネガの現像時間が正しいと考えていいと思います。

 今回の場合Microdol-X原液で6 1/2分(20℃)、Microdol-X1:3の希釈液で12分(20℃)が最良の結果になりました。


まとめ

 私の判断の仕方が正しいともベストの方法とも思っていませんが実践的な感度や現像時間の求め方の一つだと思っています。ちょっと手間ひまがかかりますが目で確認しながらの作業なので結果は分かりやすいと思います。技術的な解説やなぜ?と思うようなことは上記に登場したhttp://www.tokyo-photo.net/TOKYO PHOTO NETの苅尾邦彦氏の解説がよく分かると思います。僕もいつも参考にしながら勉強しています。

 Plus−Xの感度や現像時間を求めるために実験をした訳ですが肝心の写り、プリント結果はというと僕の好きな仕上がりに近いと思います。少なくともACROSSや100DELTAで感じた違和感のようなものはありません。現像液もMicrodol−X以外にD76(1:1)も試して見ました。(D76原液やXTOLの使用は現像時間が短くなりすぎて現像がやりづらいのでパス)その中でベストと思われるのはMicrodol-X原液使用でした。きめの細かさの中にもしっかりと粒状感は残っています。Microdol-X(1:3)やD76(1:1)の希釈液を使用して現像するとPlus−Xの微粒子という長所がスポイルされTri−Xとの差別感は薄れます。

 ここに書かれてあることはPlus−Xというフィルムを使ってMicrodol-Xで現像しFocomat Tcでオリエンタルの印画紙ニューシーガルGFにプリントした結果を基に書かれています。そしてもっとも大きな違いは僕の好みとあなたの好みが一緒じゃないということです。Tri-XもPlus-Xも硬い(画像の印象が)とよく書かれていますが僕は一度もそのように感じたことが無い。ネガのコントラストも違うだろうしプリントの仕方にもそれぞれ違いがあるだろうし最終的な印象はみんな違うと思います。だから面白いわけだ。悪戦苦闘している姿が何かの参考になればというところです。

 もう一つの発見というか、いいかも知れないと思ったことは中判に使って見たらどうかなということです。Tri−Xが好きな僕としては中判だからといって粒状感の無い画面が欲しい訳ではないのです。粒子が小さくなってもTri−Xの雰囲気を残しておいてくれそうなフィルムです。
 あとは、Tri-XもPlus-Xも古いモノクロフィルムです。いつまで店頭に並んでいてくれるでしょうか。最近はこんなことを本気で心配しなくてはいけなくなりました。