第8回 多階調印画紙の話

 最近は印画紙の売り場に行くと多階調印画紙が売り場を占拠しています。
号数印画紙のように何種類かを用意する必要も無く大変便利な印画紙ですが、本当のよさは・・・

 写真を撮るときに目も眩むような明るい場所と真っ暗な場所が混在する場合、私たちはどちらかを犠牲にして露出を決めています。
 フィルムのラチチュードに収まる範囲しか記録されないので仕方が無いのですが、しかし軟調にプリントするとつぶれてしまうところやとんでしまうところの再現幅が広がります。
しかしすべて軟調なプリントにすればコントラストの低いメリハリの無いプリントになってしまいます。
 ここで多階調印画紙の登場です。焼き込みや覆い焼きを行うときに軟調なフィルターを使用して行うと違和感の無いプリントに仕上げられます。それに副産物として露光時間も長くなりますので焼き込みや覆い焼き作業がしやすくなります。今までは焼き込みや覆い焼きというとなんだかオリジナルの画像を誇張するように感じられましたがフィルムに写っている画像を印画紙に再現する工程と考えることが出来ます。

 どこのメーカーの説明書にも「ハイエストライトからディープシャドーまで階調に優れた・・・」等と書かれていますが、実際の違いはどれ位のものなのでしょうか気になりますよね。
 各社といっても4社ですけども、多階調印画紙のプリント比較を行いました。目的は自分の表現に適した(または現像条件に適した)印画紙を探ることで、優劣の判断ではありません。
 現在、有名メーカーの発売している印画紙に品質の悪いものはありません。


a. 各社印画紙の比較
 
 

共通データ
 引き伸ばし機:Fuji FD-690 引き伸ばしレンズ:Fuji FUJINON EX-50mmF2.8
 現像液:Kodak Dektol 20℃ 現像時間90秒 定着液:Kodak Kodafix 20℃
 絞り:F5.6 露光時間:4秒 多階調フィルター:Ilford 2号 

 比較のためストレート焼きです。
現像時間も各社指定時間の90秒で現像しています。
 各印画紙とも6切りサイズに引き伸ばした左の写真の中央部分を拡大したのが下の写真です。
 モニター画面上では判りづらいかもしれませんが、違いがある事だけは確認できると思います。

       
ILFORD MULTIGRADE W FB1K
ORIENTAL NEWSEAGAL VC-FBU

ベース色は一番白い
シャープな感じがするが立体感は乏しい
Dektolとの相性が悪いのかも
乾燥時のカールが一番すごい
店の在庫は一番多い、人気商品

少し青味がかった黒
ハイライト部分でもディテールが出ている
ハイライト部分に比べ黒い部分がソフトに見える
どこの 店に行っても在庫が少ないんだけど人気が無いのかな
私は好きなんですけどね

FORTE PORYGRADE V.FB
FUJI REMBRANT V.G2

シャープさは一番無いのに、立体感は一番ある
黒のしまりが有るからそう見えるのか
変な表現かもしれないが一番写真らしい感じ
在庫はイルフォードと同等か、シングルグレードの方が人気がある

他の印画紙に比べて少し濃い目に出るが
全体のバランスは一番いい感じがします
さすがに大手メーカーです何処のお店にも在庫あり


b. 現像時間で変化があるか
 現像時間は各社90秒位が標準となっています。処理温度が高い場合には処理時間の延長は短めのようです。
 メーカーのデータ表の「現像時間−最高濃度グラフ」でも90秒あたりで濃度変化は止まっているように見えます。
標準時間以上の現像時間を与えることはメーカーの言う通り「百害有って一理無し」なのでしょうか?
又、現像液の説明書に書かれた処理時間と印画紙の説明書に書かれた処理時間に違いがあったりします。
どっちの時間を標準と考えればいいのでしょうか?。
 写真家の話の中や、Web上の記事などにも私の現像時間は3分だとか5分だとか書かれています。
もちろん薬品の違いや希釈率の違いなどがあり、ただ単に時間が長いだけではないのでしょうが、ちょっと気になります。
 黒の濃度が判りやすいと思われる写真をプリントしてみました。
  共通データ
 引き伸ばし機:Fuji FD-690  引き伸ばしレンズ:Fuji FUJINON EX-50mmF2.8
 現像液:Kodak Dektol 20.5℃  定着液:Kodak Kodafix 20℃
 絞り:F8  露光時間:6.5秒  多階調フィルター:Ilford 2号
 印画紙:イルフォード MULTIGRADE W FB1K


現像時間:90秒

 

 

 現像時間が長くなると確かに黒の濃度は上がっていますが、暗い部分の階調は失われていきます。180秒位がバランスを崩さず一番濃度が上がっているように思います。

(KodakのWeb上のSolution Temperature/Time Rangeには20℃で3/4to4minutes for Fiber-base papersと書かれています。)

 この写真では180秒で現像したものが意図したものに近い表現となりました。
 しかし現像時間で濃度をコントロールするより露光時間でコントロールするのが正しい方法です。メーカーの推奨時間内で自分の現像時間を決めるのが一番よいかもね。
 ただしそこに何か意図することがあればその限りではありません。
好きな時間だけ現像すればいいでしょう。

   

現像時間:180秒
   

現像時間:5分
 c. まとめ

 印画紙のメーカーによって確かに違いはあります。又現像時間の長短によっても違いがあります。
これは試す前から予想が付いていた事です。ただどのくらいの違いが有るのかを確認したに過ぎません。
又この違いは他の条件、現像液の種類、疲労度や液温に因っても変化するでしょう。
 結局あまり意味の無い実験なのかもしれません。上の2つの実験くらいの変化は他の条件次第でどうにでもなるような事です。
 この実験で一番の収穫は、試してみる前から自分の中にある一つの答えを再確認したことです。
それは、決まった薬品、印画紙を使い続けることが一番自分らしさを表現する近道ということです。
 もちろんどの薬品、印画紙を使っても一緒だということではありません。自分に合った物、気に入った物を使うことから始まります。 印画紙を変えただけで今まで苦労していたことが解消されることも事実でしょう。 人の話や意見を聞くと自分のやっていることが不安になったりします。
 意見を聞いたり参考にすることも大切ですが、でも最後は自分のやり方を信じて使い続けることだと思います。
使い続けることによって変化の予測がつくようになってきます。変化の予測がつくことはとても大事なことです。ただ現像処理は化学変化であることは間違いないので、それには守らなくてはならないルールはあります。
 そしてもう一つこれが一番大切で一番難しいことですが、引き伸ばしたくなるような写真をいっぱい撮りた〜い。

PS.今回多階調印画紙を試してみてフィルターのせいか印画紙の特性かどうか判りませんがシングルグレードの印画紙のプリントの美しさを再確認!